摘要:東京都内とその近郊にある江戸時代遺跡19遺跡からわずかずつ出土した頭蓋・四肢骨の計測値を,将来の比較研究の材料として,まとめて提供する。江戸御府内の遺跡から出土した頭蓋の計測値のみを仮集計した結果,その混合標本は比較した他の御府内出土江戸時代人標本とはあまり似ていなかったが,男女ともに,頬弓幅が非常に狭い,という特徴を持っていた。男性の頬弓幅は牧野家藩主の平均値に最も近く,女性は北陸現代人や徳川将軍正室・側室の平均値に非常に近い値をとる。これは,今回報告した資料の中に富裕階層の人骨が比較的多く含まれていることを示唆するものかもしれない。さらに,マハラノビスの D 2距離によれば,全体としては男性混合標本は東北地方現代人に,女性混合標本は中国地方現代人に最もよく似ていた。江戸時代人骨に見られる大きな変異の原因や現代日本人の形成過程を明らかにするには,今後も引き続き,人骨と環境要因に関する遺跡別のデータ収集が必要である。