摘要:中世人骨の形態的特徴の研究は,当時の人々の姿かたちを明らかにし,日本人の身体形質の時代的な移り変わりを解明するために重要である。本研究の目的は,中世人骨の四肢骨長に基づき身長推定を行うこと,中世人骨の身長推定に適切な推定式を検証すること,日本人の身長の時代的な移り変わりを再検討することである。資料は,鎌倉市由比ヶ浜南遺跡出土中世人男性59体,女性52体の上腕骨,橈骨,大腿骨,脛骨である。まず,各四肢骨長に基づき男性6種類,女性3種類の身長推定式から平均推定身長を求めた。次に,身長推定式を評価するために,男性6種類,女性3種類の各方法について,4長骨に基づく推定値の差異を分散分析で検討した。4長骨に基づく身長推定値の差異が小さい式は,男性では藤井の式,Trotter and Gleserのモンゴロイドの式,女性では藤井の式,佐宗・埴原の式であり,これらの式は中世人骨の身長推定に適していた。続いて,由比ヶ浜南遺跡の中世人骨に対して,藤井の大腿骨最大長の式に基づく身長推定を行い,他集団との比較を行った。その結果,男性では弥生時代人,古墳時代人との間に1%水準の有意差を認め,また,女性では弥生時代人との間に1%水準の有意差を,古墳時代人と近代人との間には5%水準の有意差を認めた。日本人の平均推定身長は古墳時代から明治時代の間に低くなる傾向が再確認された。