澱粉には,その構成糖にリン酸基がエステル結合している糖を含むことが知られている.著者らは馬鈴薯澱粉の加水分解物より,リン酸基がエステル結合している糖,つまり,リン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca)を調製してきた.このリン酸化オリゴ糖は二つの画分PO-1画分およびPO-2画分から構成されていた.PO-1画分はリン酸化オリゴ糖の主な成分であって,マルトトライオース,マルトテトラオース,およびマルトペンタオースから構成されており,分子内に1個のリン酸基を有していた.PO-2画分は主にマルトペンタオースおよびマルトヘキサオースから構成されており,少なくとも2個のリン酸基を分子内に有していた.リン酸化オリゴ糖はカルシウムと水溶性の複合体を形成し,カルシウム-リン酸の沈澱形成を阻害する効果を有していた.以上の結果をもとにリン酸化オリゴ糖のカルシウム塩(POs-Ca)を食品素材として開発してきた.POs-Caは,水溶性カルシウム供給のための食品素材として優れていた.また,う蝕予防の観点から,リン酸化オリゴ糖はう蝕原因細菌であるミュータンス連鎖球菌の栄養源にならず,本菌の産生する酸によるプラーク内のpHの低下も抑制する作用を有していることを明らかにした.さらに,POs-Caは初期う蝕を誘発したエナメル質の再石灰化を効果的に促進する作用も有していることがわかった.ここでは,POs-Caを関与成分としたシュガーレスガムの初期う蝕の再石灰化効果を明らかにし,POs-Caの口腔保健への応用開発について紹介する.