グルコデキストラナーゼ (GDase) は, デキストランのα-1,6-グルコシド結合を非還元末端側からエキソ型に加水分解して, β-D-グルコースを生成するアノマー反転型酵素であり, グルコアミラーゼ (GA) と共にGHファミリー15に分類される. われわれはグラム陽性菌 Arthrobacter globiformis I42株よりGDaseのクローニングを行い, 2.42Å分解能でのX線結晶構造を決定した. GDaseはN末端に17本のβ-ストランドからなるドメインNとGAと同様に(α/α)6バレル構造からなる活性ドメインAを有していた. さらに, GDaseのC末端領域にはβ-ストランドに富んだ二つのドメインBとCが付加されていた. また, 阻害剤アカボースとの複合体構造を2.42Å分解能で決定した. GAのアカボース複合体構造と比較した結果, 両酵素ではサブサイト-1と+1におけるアカボースとの相互作用はほぼ同じであったが, 触媒ポケットの入り口に相当するサブサイト+2の構造に大きな違いがあった. GDaseではサブサイト+2はGln370のみが水素結合を形成しているが, GAではTryが位置しておりサブサイト+2のグルコース環と相互作用をしている. 一方, 活性部位を挟んでGln370の反対側に位置するTrp582はアカボースとはスタッキングしていないが活性部位の内側に向かって突き出しているが, GAではこの張り出しは存在しない. このように, 活性部位入り口近傍の違いが, GDaseとGA基質特異性の違いの一つになっていることが考えられた. ドメインCにはグラム陽性細菌の表層に存在するS-layerに結合するのに必要なS-layer相同性配列(SLH)が認められるが, ドメインBの高い疎水性やドメインCの糖結合ドメインとの相同性から, これらのドメインが菌体表層への結合に何らかの関与を示すことが示唆された.