天然界には, 多彩な生物機能を有する様々な希少糖から成るオリゴ糖が存在している. われわれは, これらのオリゴ糖をグリコシダーゼの糖転移反応を利用して合成することを目的として研究を行っている. そのためには, 構造を異にする多くの糖分子に対応できるような多様な基質特異性を有するグリコシダーゼがあると大変便利である. このような酵素を得るため, われわれは, 1) 種々のα-グリコシダーゼの潜在性未知基質特異性の探索, および 2) α-グルコシダーゼの研究室内進化による基質特異性の改変の二つの研究を行っている. 1) の研究では, p -ニトロフェニルグリコシドの様々な誘導体を合成し, それらに対する種々の生物由来のα-グリコシダーゼの加水分解活性を調べた. その結果, 多くの酵素が特定の部分デオキシ糖基質に対して高い活性を示すことがわかった. そこで, Aspergillus niger のα-グルコシダーゼおよびナタ豆のα-マンノシダーゼについてみられた2-デオキシグルコシドおよび6-デオキシマンノシド (D-ラムノシド) に対する特異性と, それらの糖転移作用を利用してオリゴ糖合成を行ったところ, イソマルトースのグリコン2-デオキシ誘導体と, Pseudomonasu 属細菌の抗原性リポ多糖糖鎖中の繰返し三糖の部分構造であるα-1,2結合ラムノ二糖を, それぞれ好収率で合成することに成功した. また, 2) の研究では, Geobacillus stearothermophilus の活性部位を形成すると推定されるいくつかのアミノ酸を, 遺伝子工学的手法によりアラニンとアスパラギンに置換して変異酵素を作成し, それらの基質特異性の変化を種々の p -ニトロフェニルグリコシド誘導体を基質として用い調べた. その結果, 特定の変異酵素について基質特異性に関する若干の変化はみられたが, 多くの変異酵素について有意な変化はみられなかった.