好熱性放線菌 Thermoactinomyces vulgaris R-47が生産するα-アミラーゼ (TVA II) は, 非常に幅広い基質特異性を示す酵素である. Asp465とArg469は触媒部位近傍に位置しており, α-アミラーゼファミリーでも比較的高度に保存されている残基である (Fig. 2.). 本研究ではこれら二つの残基に部位特異的変異導入を行い, 五つの変異型酵素 (D465N, D465E, D465Q, R469L, R469K) を作製し, さまざまな基質に対する活性測定とX線結晶構造解析による考察を行った. その結果, Asp465よりもArg469に変異を導入するとどの基質に対しても活性が大幅に低下した (Table 2). α-サイクロデキストリンを用いた速度論解析から, Asp465変異型酵素では K mの増加のみを示すのに対して, Arg469変異型酵素では K mの増加と同時に k cat値の大幅な減少を伴っていた. Arg469は触媒残基の一つであるAsp421と近接しており, アルギニン側鎖の正電荷がAsp421の脱プロトン化状態を安定化することで触媒活性にも関与することが示唆された (Fig. 4). これらのことから, 基質に含まれるマルトース単位をAsp465とArg469が厳密に認識することにより, TVAIIの幅広い基質特異性が生じているものと考えられた.