嫌気性好熱菌 Thermonanerobacter brockii 由来コージビオースホスホリラーゼ (KP) は加リン酸分解反応によりコージビオースからグルコースとβ-グルコース-1-リン酸 (β-G1P) とを生成する.本酵素はまた,グルコースとβ-G1Pとからコージビオースのみならず重合度3以上のコージオリゴ糖を生成することが明らかとなっている.適当な受容体糖質の存在下で本酵素をβ-G1Pに作用させることにより新規なオリゴ糖や新規なコージオリゴ糖を調製することが可能である.本研究では,効率的なオリゴ糖の生産や新規なオリゴ糖の酵素合成を目指すため,酵素側からのアプローチとして遺伝子工学的手法を用いて野生型酵素よりもさらに有用な機能を獲得した改変酵素の創出を試みた.KP遺伝子にランダム変異を導入し,機能改変酵素のスクリーニングを行った.その結果,70,75℃における活性半減期が野生型KPの4-7倍に増大した耐熱化変異酵素D513Nと,重合度の大きい生成物を野生型よりも多く産生するDP変異酵素S676N,N687Iを得た.基質特異性改変酵素を獲得する目的で,KPと類縁酵素であるトレハロースホスホリラーゼ (TP) との間でキメラ酵素を作製した.キメラ酵素V-IIIは,全アミノ酸配列中の約84%がTPに由来するにもかかわらず,本酵素はKP活性を示したことから,置換した領域が基質特異性に大きく寄与すると考えられた.本キメラの速度論的解析の結果,コージビオースに対する親和性が野生型KPと比較して著しく増大していた.また,グルコース以外の単糖を受容体としないこともわかった.さらに,本キメラはリン酸非存在下でβ-グルコシド結合をもつオリゴ糖に作用して糖転移物を生成した.これらの結果から,キメラV-IIIの獲得した特異性変化は,触媒部位の還元末端側の構造が変化し,この部位における基質結合能力が著しく低下したためと推定された.