植物種子が発芽する際に貯蔵物質である澱粉は,各種加水分解酵素により酵素分解され,生長に必要な物質・エネルギーの供給源となる.澱粉は植物種子中に不溶性の澱粉粒として存在するため,現在までα-アミラーゼが唯一澱粉粒に直接作用できる酵素であると考えられてきた.しかし,我々は植物α-グルコシダーゼが澱粉粒への吸着・分解能をもつことを明らかにし,第2の澱粉分解経路 (澱粉粒にα-グルコシダーゼが作用し,直接グルコースを遊離する経路) の存在を示した.さらに,植物α-グルコシダーゼには,触媒ドメインとは独立して機能する澱粉粒吸着ドメインがC末端に存在することを解明した.本ドメインに保存された芳香族アミノ酸に対する部位特異的変異導入により,澱粉粒吸着に関与する残基を推定した.植物種子中には,複数のα-グルコシダーゼが存在する.我々は,イネ種子中に可溶性および不溶性 (界面活性剤により可溶化が可能) の性質を示す2種のアイソザイムを見出した.両酵素の発現様式から,14品種のイネ種子を二つのグループ (グループ1,2) に大別した.グループ1は,不溶性酵素のみが乾燥種子に検出されるイネ品種である.不溶性α-グルコシダーゼが登熟期で合成され,完熟に伴い種子中に保存されるが,発芽の進行につれ消失する.発芽後に可溶性酵素が新たに合成される.グループ2の品種では,可溶性および不溶性の酵素が乾燥種子に検出された.両酵素は登熟期で合成され,発芽期間中の活性は変化せず,一定のレベルで推移する.グループ1からは赤米を,グループ2では日本晴を実験対象に選び,α-グルコシダーゼの機能解析を行った.翻訳後修飾やゲノム遺伝子発現調節によるアイソフォームやアイソザイムの形成機構ならびに精製酵素を用いた性質の解明を行った.多様なα-グルコシダーゼが関与する澱粉代謝の一端が明らかにされた.N末領域に生じる翻訳後限定分解は,植物酵素に対し一般的に観察される現象であった.