グルコース飢餓,ウイルス感染,低酸素状態などの小胞体ストレスは小胞体に高次構造異常タンパク質を蓄積させる。細胞は分子シャペロンを転写レベルで誘導するunfolded protein response(UPR)を誘起するなどして小胞体ストレスに抵抗するが,強い小胞体ストレスは細胞をアポトーシスへと誘導する。よって小胞体ストレスに起因するアポトーシスをがん細胞で誘導する化合物は抗がん剤となりうる。現在,新規な抗腫瘍薬の一つとして,がん細胞におけるアポトーシス誘導を標的とした抗腫瘍薬の開発が行われている。そこで我々は, N -結合型糖鎖プロセッシング酵素を阻害することにより小胞体に高次構造異常タンパク質を蓄積させ,それによる小胞体ストレスによって誘起されるUPRを阻害することによりアポトーシスを誘導する化合物(小分子アポトーシス誘導化合物)としてスルホンエステル誘導体(1-6)とスルホンアミド誘導体(7-12)を設計し(Fig. 1)合成を行った(Fig. 3-4)。合成した化合物(1-12)のα-グルコシダーゼ阻害活性(Table 1)とDNA切断活性(Table 2)について検討を行った。更に,細胞レベルでの N -結合型糖鎖プロセッシング酵素阻害活性についても検討した。その結果,ナフチル基を有する化合物6と12が, S. cerevisiae 由来α-グルコシダーゼに対しIC50=51.7 μ M と74.1 μ M , B. stearothermophilus 由来α-グルコシダーゼに対しIC50=60.1 μ M と89.1 μ M の阻害活性を示し,化合物12が最も強くDNA切断活性を示した。しかし,すべての化合物が細胞レベルにおいて,酵素阻害活性を示さなかった。以上,酵素レベルにおいてα-グルコシダーゼ阻害活性とDNA切断活性を有する小分子を見いだした。今後は,細胞レベルにおいても有効な化合物設計を行う予定である。