澱粉から酵素的に生成するオリゴ糖を広く検索したところ,土壌由来細菌 Bacillus circulans AM7株の培養上清中に未知糖質を生成する活性を見出した.未知糖質を単離し構造を決定したところ,マルトペンタオースがα-1,6結合で環状化した新規環状五糖, cyclo -{→6)-α- D -Glc p -(1→4)-α- D -Glc p -(1→4)-α- D -Glc p -(1→4)-α- D -Glc p -(1→4)-α- D -Glc p -(1→},であった.われわれは本糖質をイソサイクロマルトペンタオース (ICG5) と命名した.ICG5生成に関与する酵素を精製し,諸性質を調べた.本酵素は分子量106.3 kDa (SDS-PAGE),最適pH 4.5-8.0,最適温度50-55°C,pH安定性4.5-9.0,温度安定性35°Cまで (1 m M Ca2+存在下で40°Cまで) で,重合度3以上のマルトオリゴ糖や澱粉に作用しICG5を生成した.本酵素のマルトヘプタオースへの作用を経時的に観察したところ,反応初期からICG5の生成 (環状化反応) とともにマルトオリゴ糖単位の再配列反応がみられた.これらの結果から本酵素は新規なグルカノトランスフェラーゼであることがわかり,イソサイクロマルトオリゴ糖グルカノトランスフェラーゼ (IGTase) と命名した.IGTaseの1次構造を明らかにするため,本酵素遺伝子 ( igtY ) をクローニングし塩基配列を決定した.本酵素遺伝子は2985 bpからなり,シグナルペプチド35残基を含む995アミノ酸からなるタンパク質 (分子量105.9 kDa) をコードしていることがわかった.本酵素のアミノ酸配列中にはα-アミラーゼやCGTaseなどの間で保存されている4カ所の共通領域が存在し,本酵素は“α-アミラーゼファミリー”に属することが示唆された.またC末端領域にはcarbohydrate-binding module family 25 (CBM25) に属する澱粉結合ドメインが2カ所存在した.また,本酵素遺伝子の直後に糖質関連酵素をコードすると考えられる遺伝子 ( igtZ ) が存在した. IgtZ をクローニングし塩基配列を決定したところ,本遺伝子は3870 bpからなり,1290アミノ酸からなるタンパク質 (IgtZ;分子量138.8 kDa) をコードしていることがわかった.IgtZの触媒部分と相同性がみられるタンパク質は報告されていなかったが,C末端領域にはIGTaseと同様にCBM 25に属する澱粉結合ドメインが2カ所存在した.大腸菌を用いて発現させた組換えIgtZを精製し,その諸性質を調べたところ,α-アミラーゼ活性を有していることがわかった.IGTaseと組換えIgtZを可溶性澱粉または生澱粉に作用させ,ICG5の生成率を検討した.可溶性澱粉に両酵素が作用した場合はIGTase単独に比べて生成率は低下したが,生澱粉に両酵素が作用した場合はIGTase単独に比べて2倍の生成率を示した.このことから,両酵素は生澱粉から効率よくICG5を生成するために宿主菌株に備わった機構であることが示唆された.