アミロースは,グルコースがα-1,4結合により直鎖状に連なったポリマーであり,シクロアミロース,グリコーゲンなど種々のグルコースポリマーの原料となる.また,機能材料として,種々の産業分野におけるアミロースの利用が期待されている.アミロースは,天然のデンプンの成分として自然界に大量に存在しているが,デンプンの主成分であるアミロペクチンとの分離が難しいため,天然アミロースの工業的な生産は行われていなかった.一方,アミロースは酵素を利用して合成できることが知られている.中でもα-グルカンホスホリラーゼは,合成するアミロースの分子量を制御することが可能であり,アミロース合成において優れた酵素である.そこで,私たちは,産業化利用を目的として,熱安定性に優れたα-グルカンホスホリラーゼの開発を行った.まず,高度好熱菌 Thermus aquaticus 由来のα-グルカンホスホリラーゼ遺伝子を取得し,大腸菌で発現させ耐熱性酵素を得た.次に,タンパク質工学的手法を用いて,馬鈴薯由来のα-グルカンホスホリラーゼの耐熱化を行った.また,α-グルカンホスホリラーゼは高価なグルコース1-リン酸を原料とするため,私たちは,スクロースやセルロースからグルコース1-リン酸を合成できるスクロースホスホリラーゼやセロビオースホスホリラーゼをα-グルカンホスホリラーゼと組み合わせて反応させることにより,安価な原料からアミロースを量産化する方法を開発した.さらにこの反応に,グルカン転移酵素を組み合わせることにより,種々のグルコースポリマーの合成も可能となり,α-グルカンホスホリラーゼはこれらグルコースポリマー合成の鍵となる酵素である.ここでは,産業的利用を目的としたα-グルカンホスホリラーゼの開発と改良について,さらに本酵素を利用したアミロース合成について報告する.