西洋ワサビパーオキシダーゼ (HRP) が触媒する4´-ヒドロキシフェニル α-グルコシド (α-Arb) と4´-ヒドロキシフェニル β-グルコシド (アルブチン,β-Arb) の重合過程を詳細に解析した.さまざまな重合度の基質から生じるラジカルがカップリングすることにより重合反応が進行するという理論モデルを作成した.このモデルは,単量体が消滅するまでポリマーが増加することや2量体が一時的に蓄積することなど,H2O2添加に伴う実験的な重合経過をほぼ再現していた.中性pHの緩衝液の添加でグルコース残基の部分的な加水分解を抑制すると重合物の収量は増加した.また収量は,酵素量が余りに少ない場合を除いて,H2O2を数回に分けて段階的に添加することで一度に入れた場合よりも大幅に向上した.α-Arbから得られる重合物は,β-Arbのポリマーと同様にヒドロキノン部分の3´と5´位で結合した主鎖構造を有していた.マルトオリゴ糖とプルランを標準とした場合のゲルろ過法による分子量分布は1-25 kDaであった.質量分析で得られた重合度分布は6-17であり,α-Arb重合物はβ-Arb重合物よりも短い重合度の成分をやや多く含んでいた.西洋ワサビ,ダイズ, Arthromyces 由来の各ペルオキシダーゼは,β-Arbをα-Arbよりも速やかに重合させた.これらの酵素の中では,HRPが両Arbの重合の際にH2O2を最も速やかに消費することから,両Arbの重合活性はこれらの酵素中で最も高いと考えられた.サイクリックボルタメトリーで測定したα-Arbとβ-Arbの酸化電位はそれぞれ821 mVと835 mVであり,基質の電気化学的反応性はほぼ同じと推定された.したがって酵素重合反応における両Arbの反応性の相違は,両基質に対する酵素の立体選択性の相違によるものと考えられた.