δ-トコフェロールとサイクロデキストリン(CD)の複合体の形成状況を二つの複合体調製方法によって検討した.一つは,著者らが新たに開発したCDと脂溶性生理機能成分の複合体調製方法(CDラップ法)を用いδ-トコフェロールと糊化デンプンの混合物を20%エタノール溶液中でサイクロデキストリン合成酵素(CGTase)を用いて60°Cで15時間反応させた.もう一つは,従来のCDで包接する調製方法を用いδ-トコフェロールとCDを水に添加して撹拌させた.二つの方法で調製した試料をfast atom bombardment mass spectrometry(FAB-MS法)によって分析した.その結果,CDラップ法で調製した試料では,δ-トコフェロールとα-CDおよびδ-トコフェロールとβ-CDの複合体の分子量に相当する位置にピークを確認した.一方,CD包接法で調製した試料では,δ-トコフェロールとCDとの複合体の分子量に相当する位置には,ピークは確認できなかった.以上の結果より,従来のCD包接法では,δ-トコフェロールとCDの複合体が形成されないのに対し,CDラップ法では,δ-トコフェロールとCDの複合体の形成が可能であることが示された.これは,CDラップ法では,CGTase反応中のエタノール存在下でδ-トコフェロールが糊化デンプンと共存しており,反応の進行によりCGTaseの作用でCDの生成と並行して複合体が形成するものと考えられた.