カルボキシル化合物への糖転移反応を触媒する糖質関連酵素を求めてスクリーニングを行った. Streptococcus mutans 由来スクロースホスホリラーゼは特に酸性条件下で安息香酸への明確な糖転移活性を示した. Leuconostoc mesenteroides 由来スクロースホスホリラーゼもまた活性は弱いものの同様の反応を触媒した.スクロース,安息香酸および S. mutans 由来スクロースホスホリラーゼを用いた反応液から3種の主生成物が検出された.これら化合物およびアセチル化物を単離し構造解析を行い,得られた生成物の構造を1- O -benzoyl α- D -glucopyranose, 2- O -benzoyl α- D -glucopyranoseおよび2- O -benzoyl β- D -glucopyranoseであると決定した.酵素反応液および単離した1- O -benzoyl α- D -glucopyranose水溶液中に生じた生成物の経時変化を調べた結果,酵素反応により1- O -benzoyl α- D -glucopyranoseが生成し,2- O -benzoyl α- D -glucopyranose と 2- O -benzoyl β- D -glucopyranoseは1- O -benzoyl α- D -glucopyranoseの分子内アシル基転位の結果生じたものであることがわかった.本酵素の受容体特異性について検討を行い,本酵素は種々のカルボキシル化合物に対し糖転移できることを明らかにした.酢酸,リン酸,ハイドロキノンを受容体とした際の本酵素反応のpH依存性について比較した結果,カルボキシル化合物が受容体となるためにはカルボキシル基が非解離状態であることが重要であると考えられた.本酵素の糖転移反応を用いて1- O -acetyl α- D -glucopyranoseの合成にも成功した.酢酸および酢酸配糖体の官能評価を試みたところ,配糖化により酢酸特有の酸味が著しく低減していることが明らかとなった.