多糖類のゲル化機構を分子レベルで解析する材料として,κ-カラギーナンを最初に選択したのが幸いであった.1価のカチオンのなかでも大きいそれらが架橋を形成する空間を容易に見出すことができた.そして,この多糖の結合様式にゲルの原理が秘められていた.多糖類の分子論的レオロジー解析法は筆者によって開発され,現時点でも独走の状態にあるといえる.ゲルの世界は小宇宙である.水分子が炭素原子同様の正四面体をとるときに多糖ゾルがゲルに転移する.この瞬間を是非,科学的に,これから解明したいものである.最も困難であったのは澱粉の糊化と老化に直面したときであった.そのとき,過去の研究成果を振り返ることによって光が差した.キサンタンガムは鹿児島大学大学院修士課程に在学(1970-1972年)していたときから手がけ,現在でも重要な研究材料の一つである.事実,去る4月(2008年)にニューオーリンズ(アメリカ合衆国)で開催されたアメリカ化学会大会で「キサンタンガムとホゥオゥ木由来ガラクトマンナンとの協力ゲル化機構」について発表したところである(当地はジャズの誕生の地であるので,同時に「ジャズとベートヴェンの関係」についても話した).これまで,自然の女神がほほえむ姿を何度もみることができた,正しく,ルイ・パスツールの名言が生きていることを何度も実感した-「新しい発見は心がけが備わっている者のみに訪れる」.立体化学を創始したファント・ホッフと,それを確立したエミール・フィッシャの曾孫弟子として,彼らの遺産を継承して発展させることができたことをうれしく思う.学会賞を受賞する栄誉までいただいたのであるから,なおことである.多くの,特に,学生や若い研究者に是非この多糖ゲルの世界に挑戦して羽ばたいていただきたい.