本研究では,アルキル基のような短い直鎖状スペーサーの両端に糖質の結合したスペーサー結合型の二価配糖体が,二価糖鎖の単純化した糖ミミック(glycomimetic)構造であるとして,糖質分解酵素を用いた簡便な合成法の開発および二価リガンドとしての機能研究を目的とした.糖供与体に(GlcNAc)4,糖受容体にアルカンジオール[HO-(CH2) n -OH, n =3-7]またはトリエチレングリコール,粗酵素標品として Amycolatopsis orientalis 培養上清の80%硫安沈殿画分を用いて反応を行ったところ,反応液中にGlcNAcが片側水酸基に転移した一価配糖体とともに,両側水酸基にGlcNAcが転移したスペーサー結合型GlcNAc配糖体1-6が生成することをはじめて見出した.反応メカニズムを探るため,GlcNAcアミジンアフィニティーカラムにより粗酵素からNAHaseを精製した.配糖体形成試験の結果,スペーサー結合型配糖体はNAHaseによるGlcNAc転移により生成することが示唆された.次に,キチンオリゴ糖に特異的結合能があるとされるwheat germ agglutinin (WGA)を用いて,スペーサー結合型配糖体のレクチンとの相互作用について,沈降試験および表面プラズモン共鳴法を用いて検証した.WGAとスペーサー結合型GlcNAc配糖体を混合したところ,特異的濃度条件下においてすぐに白濁の沈降体の形成が観察された.これは,スペーサー結合型配糖体が二価リガンドとして作用したことを示唆している.そこで,一定量のWGAと様々な濃度の配糖体溶液を混合し,1時間静置後,上清の280 nmの吸収から沈殿したWGA量を求めて,沈降曲線を作成した.その結果,スペーサーの長さにより,沈降の強さに影響することが確認できた.次に,BIAcore2000による表面プラズモン共鳴法による相互作用解析を行った.WGAを直接センサーチップに固定化し,一定量のWGAと様々な濃度の配糖体の混合溶液を流すことにより解析を行った.その結果,スペーサー結合型配糖体濃度の増加に伴い,センサーグラムの上昇・下降が観察された.このことから,センサーチップ上における固定化WGAと注入WGAが,スペーサー結合型GlcNAc配糖体一分子を介して架橋され,それらが連続的に架橋することで複合体が形成されていることが示唆された.以上,レクチン架橋能を示す有用なスペーサー結合型配糖体を, A. orientalis 由来のキチン分解酵素を用いることにより簡便に合成できることを見出した.