澱粉から酵素的に生成する非還元性糖質を広く検索したところ,土壌由来細菌 Arthrobacter globiformis M6株の培養上清中に未知非還元性糖質を見出した.この未知糖質の構造を決定したところ,グルコース4分子がα-1,4結合とα-1,6結合を交互に繰り返して環状化した新規環状四糖, cyclo -{→6)-α- D -Glc p -(1→4)-α- D -Glc p -(1→6)-α- D -Glc p -(1→4)-α- D -Glc p -(1→}であった.我々は,この糖質を環状マルトシルマルトース(CMM)と命名した. A. globiformis M6株の培養上清からCMM生成酵素を精製し,その諸性質を調べたところ,本酵素は,重合度3以上のマルトオリゴ糖や澱粉に作用してCMMを生成した.CMM生成機構を調べたところ,CMM生成酵素はマルトース単位でα-1,6分子間転移反応,およびα-1,6分子内転移反応を触媒することでCMMを生成することがわかった.このことから,本酵素は新規転移酵素であり,我々はこの酵素を6-α-マルトシルトランスフェラーゼ(6MT)と命名した.CMMの分解に関与する二つの酵素,CMM hydrolase (CMMase) およびα-グルコシダーゼを A. globiformis M6株の菌体破砕液から精製した.CMMaseはCMMに最もよく作用しマルトシルマルトース (MM) もしくはマルトースを生成するが,グルコースは生成しなかった.α-グルコシダーゼはCMMには作用しないが,MMやパノース,マルトースによく作用し,グルコースを生成した.CMMはCMMaseとα-グルコシダーゼの共同作用により最終的にグルコースにまで分解されることがわかった.M6株のゲノムDNAライブラリーから,6MT,CMMase,およびα-グルコシダーゼ遺伝子をクローニングした.これら遺伝子の塩基配列を解析したところ,6MTは623アミノ酸残基から,CMMaseは450アミノ酸残基から,α-グルコシダーゼは567アミノ酸残基から成ることがわかった.これらの酵素はいずれもそのアミノ酸配列中に,グリコシドヒドロラーゼファミリー13に属するα-アミラーゼファミリーに保存されている4カ所の共通領域が存在し,これらの酵素はα-アミラーゼファミリーに属することが示唆された.α-グルコシダーゼ遺伝子とCMMase遺伝子の間に,糖結合タンパク質をコードすると考えられる遺伝子が一つ,透過酵素をコードすると考えられる遺伝子が二つ見出された.これら遺伝子解析から, A. globiformis M6株はCMMを介した澱粉の資化経路を有している可能性が示唆された.