キチンオリゴ糖デアセチラーゼ(COD,EC 3.1.1)は, N -アセチルグルコサミン(GlcNAc)がβ-(1,4)-グリコシド結合で連結したオリゴ糖(キチンオリゴ糖)の部分脱アセチル化を触媒する酵素である.以前,われわれは,(GlcNAc)2からCODによって生産されたヘテロ2糖(GlcNAc-GlcN)が,本酵素の遺伝子を有する数種の Vibrio 属細菌において,栄養となるばかりでなくキチナーゼ生産の誘導物質として機能していることを見出した.このように,CODはある種の細菌のキチン分解代謝において重要な役割を担っていることがわかった.しかし,CODに関しては,現在のところ3種の Vibrio 属細菌が生産するものについての報告しかなく,本酵素の生物機能,特異性および生物界における分布などについては不明な点が非常に多い.われわれは,CODに関するより多くの知見を得るため,自然界よりCOD生産菌のスクリーニングを行ったところ,静岡県下田市の爪木崎沖海底に沈めたキチン片に付着していた細菌からcarbohydrate esterase family 4に属する分泌型CODを生産する細菌( Vibrio sp. SN184)を単離することができた.本菌によるCOD生産量はきわめて少なかったため,分泌シグナル配列を含むCOD遺伝子をクローニングし,大腸菌によりリコンビナント酵素(rCOD)を培養液中に過剰生産させた.得られたrCODを精製し,GlcNAcとキチンオリゴ糖(重合度;2-6)に対する特異性を調べたところ,(GlcNAc)2と(GlcNAc)3に対して活性を示した.また,その活性は(GlcNAc)3よりも(GlcNAc)2に対して高かった(約3倍).このような特異性は,3種の Vibrio 属細菌由来のCODの中でも V. parahaemolyticus KN1699のものと類似していた.また,本酵素が(GlcNAc)2からGlcNAc-GlcNを,(GlcNAc)3からGlcNAc-GlcN-GlcNAcを生産したことから,キチンオリゴ糖の脱アセチル化は,非還元性末端GlcNAc残基の隣りのGlcNAc残基で起こることがわかった.この結果は,これまでに報告された3種の Vibrio 属細菌のCODの反応位置特異性と同じであった.