本論文は著者らがこれまでに行ってきたヘミセルラーゼの構造と機能に関する研究の一部を紹介したものである.植物多糖は自然界において最も多く存在するバイオマス資源である.多糖類の構造を修飾することにより,分子量の大きさや枝分かれの数を調整する等を意図的に行い,物性や機能性を自在に調節できれば,その利用用途を広めることができるが,そのためには酵素の特性を理解する必要があることから,ヘミセルラーゼの構造と機能の解析を行った.放線菌キシラナーゼの立体構造からファミリー10キシラナーゼが基質に存在するアラビノースやグルクロン酸の側鎖をどの様に認識するかを明らかにした.また,ハイブリッド酵素を用いた解析ではサブサイトの構造が基質特異性を決定していること,異なるサブサイト構造を組み合わせることで基質特異性を改変できることを明らかにした.また,酵素のN末端とC末端の相互作用が酵素の安定性に重要な役割を果たしていることを明らかにした.増粘多糖分解酵素に関する研究では,エキソ-1,3-ガラクタナーゼ,エンド-1,6-ガラクタナーゼのアミノ酸配列を初めて明らかにした.また,新規な酵素であるβ- L -アラビノピラノシダーゼの存在を証明し,糖加水分解酵素ファミリー27に分類される新規なメンバーであることを明らかにした.また,β- L -アラビノピラノシダーゼとα-ガラクトシダーゼの立体構造を比較し,変異体酵素を使った実験でたった一つのアミノ酸の変異がガラクトースとアラビノースの識別に決定的な影響を与え,基質特異性を決定していることを明らかにした.