生育段階および各生育段階で幹高の異なった部位から得られた澱粉の理化学的性質を,フッ化カルシウムを用いた相対結晶化度,ゲル濾過法によるアミロース含量およびアミロペクチンの鎖長分布,フォトペーストグラフィーによる透光度ならびに示差走査熱量計による熱的性質から検討し,次のような結果を得た. 1)生育年数の長い145年木の澱粉は9年木澱粉に比べて相対結晶化度が高い結果が得られた.また樹幹の部位による相対結晶化度の違いが明らかに認められ,根元部から上部にいくに従い相対結晶化度が高くなった.フッ化カルシウムを用いた相対結晶化度の測定は有用と認められた. 2)ゲル濾過法により求めたアミロース含量に相当するFr.1の値は,樹幹の根元部の澱粉が上部に比べて高い値を示し,加齢とともにその値は漸増した.また,アミロペクチンの短鎖長区分に相当するFr.IIIの値は,上部の澱粉が根元部より高い値であった. 3)フォトペーストグラフィーによる透光度から,根元部の澱粉は上部の澱粉に比べて透光度減少温度が0.3-4.6℃ 低く,より低温で膨潤が行われると考えられた.生育年数11.5年以降の澱粉では第2段階目の変曲点の認められる曲線を画き,14.5年木の澱粉および樹幹上部の澱粉は,加熱の初期から終了まで透光度の低い曲線を示した. 4)熱分析から部位による熱的性質の違いが認められ,上部澱粉は糊化開始温度が65.3-68.2℃,糊化終了温度は75.0-76.0℃ を示したのに対し,根元部の澱粉はより低温から糊化し始め,高温で糊化が終了するブロードな曲線を示した.