軟質および硬質分級小麦粉の間における製パン性の違いを明らかにするために,硬質分級小麦粉のドウの物性と製パン性を検討した.硬質小麦1CWより通常に製粉された硬質小麦粉(CW)も調製し,製パンはAACC法により行った.1CWの全穀粒重量の70-40%層から得られる分級粉で,CWの30%(30CW)と50%(50CW)が代替された.ペントサナーゼ(PEN)やショ糖脂肪酸エステル(SE)を30CWに添加すると,パンの体積は顕著に大きくなり,きめの細かい気泡をもった軟らかいパンとなり,老化抑制効果もみられた.さらに,PENおよびSEを添加した30CWは澱粉の高い糊化エンタルピーを示した.30CWへのSEの添加はCWよりも吸水率,ドウ形成時間を低下させ,生地の安定性を増加させた.またその粘弾性はCWよりもすべて高い値を示し,エクステンソグラフでは(90,135分)伸張性に対する抗張力の値がCWに比べて増加した.しかし,PENの添加ではドウの形成時間を除いて,これらの現象はみられなかった.分級粉による代替やPENおよびSEとの併用はガス発生量を増加させた.また,PENおよびSE併用のものは,顕微鏡観察においてもグルテンネットワーク構造の形成が促進され,伸展性のあるグルテンが澱粉粒子を充分に包み込んでいた.これらの結果より,CWへの分級粉とSEの添加はドウの熟成を促進し,さらにはドウ中の水の分散を制御し,CW単独よりもドウの物性と製パン性を改善すると考えられた.