マルトオリゴシルトレハロース合成酵素(MTSase)はトレハロース生合成経路の第一段階で働く酵素であり,マルトオリゴ糖の還元末端のα-1,4結合を主として分子内転移によりα,α-1,1結合に変化させる反応を効率よく触媒する.筆者らは本酵素の立体構造を精密に(1.9A分解能)X線結晶解析し,反応機構について知見を得た.MTSaseはα-アミラーゼファミリーの酵素であり,触媒活性残基(Asp228,Glu255,Asp443)はファミリーに共通に保存されたものであり,α-1,4結合の解裂に続いてグルコースの転位が起こると考えられる.全体的な構造はファミリーに共通にみられる(β/α)8-バレルが存在し(ドメインA),活性部位はその中心β-バレルのc末端側とドメインBとの間に形成されたクレフトの底に位置している.通常のα-アミラーゼに比して挿入されたポリペプチド部分が多く,全体の分子量を大きくしている(720残基).活性部位はクレフトの一端の奥に存在し,三つの活性残基を底部に有したポケットを形成している.ポケット形成には上記挿入ポリペプチド部が大きく関与している.またポケット上部には触媒活性に必須なGlu393,側面にHis229が存在し,それぞれ末端グルコース基との水素結合に関与している.基質のα-1,4結合末端が挿入された際にポケット内部で形成される酵素・基質問の水素結合の数は,α,α-1,1結合を形成することにより増加し,その結果トレハロース残基の生成が促されると考えられる.