炭水化物加水分解酵素の水解反応は,その逆反応(縮合反応)が必然的に伴った反応である.従って,水解され得る基質のみが逆反応によって生成される.ミツバチα-グルコシダーゼI は,イソマルトースを全く水解できないが,他の二糖マルトース,コジビオースを水解できる.わずかではあるが,ニゲロースをも水解する.しかしながら,本酵素は高濃度のグルコースから逆反応によってマルトース,コジビオースおよびニゲロースと共にイソマルトースをも生成した.このような事実は,本酵素がイソマルトースに対して水解作用をもたないという知見と矛盾している.この特異な現象に関する矛盾の解析が試みられた.その結果,本来,グルコースから逆反応によってイソマルトースが直接生成されることはあり得ないことであるが,逆反応によって容易に生成され得るマルトースやコジビオース等の他の二糖からの分子内糖転移反応によってイソマルトースへ変換されイソマルトースが生成されると推定された.炭水化物水解酵素の反応において,通常の糖転移反応と考えられている反応には,上述のような分子内転移反応が同時に起こっていることが示唆された.