腸炎ビブリオによる食中毒は交差汚染によって起こることも少なくないため,加工中に食品が接触する表面の衛生管理が重要である.本研究では食品接触表面の代表としてステンレス鋼の表面を取り上げ,交差汚染の初期段階である腸炎ビブリオ菌体の付着・生残挙動について検討した.ステンレス鋼平板に腸炎ビブリオ懸濁液を接触させて人為的に汚染し,水中に浸漬した後,表面に残存する生菌数を測定した.表面残存生菌数は水に1分浸漬することで激減したが,それ以上浸漬を続けても減少はわずかであり,生残菌が完全になくなることはなかった.この生残菌は付着菌全体からするとごく一部ではあるが,極めて強く付着しており,超音波処理を加えても減少しなかった.また水に浸漬した後の表面残存生菌数は,人為的汚染に用いた懸濁液の菌濃度に依存したが,接触時間には依存しなかった.以上,腸炎ビブリオの交差汚染リスクの管理に有用な基礎データを得た.