エイコサペンタエン酸 (EPA) やドコサヘキサエン酸 (DHA) 等のn-3系高度不飽和脂肪酸 (PUFA) は, 循環器系疾患の予防や, 記憶学習機能の向上などの特異な生理活性を示すことが, 近年の栄養科学的研究で明らかになっている.これらの高度不飽和脂肪酸は, 空気中の酸素によって容易に自動酸化されるため, 糖質や蛋白質などを包括剤として粉末化し, 耐酸化性を具備させることが重要である.液状のEPAやDHAおよびそのエステルの酸化速度に関しては反応工学的側面から種々の解析が行われている.本研究では, 包接機能をもつ環状オリゴ糖であるシクロデキストリン (CD) および各種糖質を包括剤とした, 粉末EPAの作成とその酸化遅延特性を測定すると同時に, 酸化速度定数の活性化エネルギーがガウス分布すると仮定した相関式を用いて, 酸化過程を相関した. 湿式混練法によってα-, β-およびγ-CDとEPAエチルエステル (EPA) の包接粉末を作成した.包接粉末の一部は乾燥後エーテルで洗浄し洗浄粉末とした.包接粉末を温度50℃の空気恒温槽に静置し, 酸素と窒素の混合ガスを流して包接粉末の酸化実験を行った.CDにより包接されたEPAはいずれのCDを用いた場合にも, また洗浄粉末, 未洗浄粉末を問わず, その耐酸化特性が著しく向上した.洗浄したα-およびβ-CD包接粉末中のEPAは670時間後もまったく酸化されず, 残存率が100%を示した.未洗浄α-CD包接粉末の場合, 酸化初期に残存率が75%まで減少するが, 20時間以後はほとんど酸化が進行しなかった.これに対して未洗浄のβ-およびγ-CD包接粉末中のEPAは, 初期200時間に著しく酸化され, その後も時間経過につれ徐々に酸化された.また, γ-CD包接粉末の場合は, 洗浄粉末も酸化時間とともに著しく酸化され, 最終的に未洗浄の場合とほぼ同程度にまで酸化された. 各種CDにプルラン, マルトデキストリン, マルトースをCDの重量に対して30%添加した混合粉体を用いて混練法によりEPA包接粉末を作成し, 酸化実験を行った.糖質を添加することによりEPAの耐酸化特性を飛躍的に向上させることができた.これはCDに包接されなかった未包接のEPAが, 糖によって被覆され, EPAの酸化が抑制されたためではないかと考えられる.CDと糖質の混合粉末を用いたEPA粉末の湿潤条件下における酸化過程を測定した.乾燥ガスを使用した場合に比較して酸化が促進され, 糖質の種類による差は見られなかった. 粉末EPAの酸化過程を, 酸化速度の活性化エネルギーがガウス分布すると仮定した数学モデルで解析した.酸化過程はこのモデルでよく相関できた.