米を炊いたり麺を茹でたりするとき, 調理前のこれらのデンプン食品は全体が未糊化であり, 平衡時に含水率が均一になるという意味で均相系と考えられるが, 加熱調理の過程ではデンプンの糊化が不均一に進行し, 食品物体の場所 (例えば, 表面と中心) により平衡含水率が異なるという意味で, 不均一系となる.Fickの拡散法則は均一系にのみ適用可能であり, このような不均一系には適用できない.そこで, このような不均一な食品中での水分移動を記述可能なモデルとして著者らにより相対含水率モデル (RWCモデル) が提案されてきた.相対含水率モデルでは水の移動は相対含水率 (含水率の水分保持容量 (WHC) に対する比) の勾配により駆動されると考える.したがって, 相対含水率モデルではWHCが重要な特性 (物性) 値になる.しかしながら, WHCについて多くは知られていない. 本研究では, WHCプロファイル (WHC値を, デンプン食品が加熱処理受けるときの含水率に対してプロットしたもの) をデンプンの糊化に関する知見に基づいて推定し, このWHCプロファイルをもとにRWCモデルによりモデル食品 (小麦粉ドウ平板) をボイルしたときの含水率分布の非定常変化を計算した.WHCプロファイルの折れ曲がりが含水率分布の折れ曲がりにどのように対応するかについての知見が得られ, それを応用して, 実測された小麦粉ドウ平板中の含水率分布の特徴を再現させるためのWHCプロファイルを提示した.