「食品の物性そして水」というタイトルの解説記事の第1回目として, 食品工学における物性の位置づけ, 水の物性に与える影響について簡単な例を挙げつつ, 概説した. 物性とは本来, 「物質のサイズや形状には依存せず物質固有の性質を反映する物理量」のはずで, 食品工学で用いる物性の多くはこれである.しかし, 産官学を含む食品科学・工学の研究者や技術者が口にする「物性」には, 本来の物性の他に, 食感・テクスチャなどや, 複数の物理現象が絡んでいる材料の特性などが含まれることがよくある.こうした物性は試料の形状・大きさや測定装置に依存するので, 試料間の相対的な比較にしか使えないものも多いが, 「現場の問題を解決する」という工学の立場として完全に否定することはできないと思われる. また, 食品の物性は, 食品科学・工学の研究者や技術者によって, 異なるとらえられ方, 用いられ方をする.工学的な理論やモデルに含まれるパラメータとしての物性値を知ろうとする食品化学プロセス工学的立場, 物性挙動から食品の内部構造 (様々な“レベル”がある) を把握しようとする物性論的立場, 物性値 (広義の物性を含む) を材料の評価に用いる立場など様々である. 水は, 食品中の多くの成分と相互作用をし, 「物性」に大きな影響を与える.ゾルーゲル転移やガラス転移において, 水の影響で物性が劇的に変化すること, 単分子吸着水のみの状態から自由水が存在する領域に至る間に食品の保存性が大きく変化することは好例である.物性は, 水と他成分との相互作用を考慮したうえで理解する必要がある.