連載の解説記事「食品の物性そして水」の第3回目として, ガラス転移に関して, 誘電解析およびパルス-NMRを用いた解析の結果を示差走査熱量測定 (DSC) の結果と比較した.最初に, ガラス転移の概念とDSCによるガラス転移点 T gの測定結果, 水の可塑剤としての役割について簡単に述べた.DSCは, T gの決定法として最も基本的なものだが, 分子の運動性についての知見を直接的には得られない.次に, 前回説明した電気物性に関する知見を踏まえ, 食品のガラス転移の誘電解析について概説した.低含水率のガラスに関しては, 誘電緩和法 (誘電損失ε”のピークに関する解析) によって得られる緩和時間τや活性化エネルギー E actによって, 分子の運動性, 水の可塑剤としての効果が定量的に評価できた.しかし, 高含水率あるいは高温で, ガラス転移点近傍あるいはラバー領域になると, 多くの食品においては, 直流電導度の影響で, ε”のピークがマスクされ, 通常の誘電緩和法の適用が困難であった.その場合には, 複素誘電率ε*の逆数である電気弾性率 M *を用いた解析が有効だった.パルス-NMR測定から得られる自由誘導減衰曲線 (FID) を理論式にfittingすることによって得られるパラメータによって, ガラス転移に伴うプロトンの運動性の変化について定量的な評価が可能であることを述べた.