軽種馬における運動負荷に伴う溶血現象を的確に把握するために,赤血球の遊離アミノ酸型と運動負荷による血漿中の遊離アミノ酸および無機イオンの濃度の変動との関係を検討した。サラブレッド種(2歳齢)16頭を赤血球中の塩基性アミノ酸(basic amino acid)濃度の遺伝的変異(BA式)により,BA+型(5頭:雌3頭,雄2頭)およびBA-型(11頭:雌5頭,雄6頭)に分類した。供試馬に1,000mを全力疾走(913±6.5m/min)の運動を負荷し,運動負荷30分前(運動前)および5分後(運動後)に,頸静脈より血液を採取した。その結果以下に示す成績を得た。1)運動後のMCHCは運動前に比べて減少し,逆に,赤血球膜の浸透圧脆弱性および血漿中のHb濃度は増加した。2)運動前の血漿中の遊離アミノ酸濃度にはBA+型とBA-型との間に明確な差異は認められなかったが,運動後,BA+型の血漿中のアラニン,セリン,スレオニン,チロシンおよびリジンなどの濃度が有意に増加した。これらアミノ酸はBA+型赤血球がBA-型のそれに比して高濃度に含有するものであり,このことから,特にBA+型における運動後の血漿中の遊離アミノ酸濃度は,赤血球中に高濃度に含有されるアミノ酸の影響を直接的に受けることが示唆された。3)運動後,血漿中のK+濃度は増加し,その増加率は赤血球中のK+濃度の低いBA+型より,その濃度の高いBA+型の方が高かったことから,血漿中のK+濃度の増加は赤血球中のK+の溶出によることが示唆された。以上のことから,サラブレッドに全力疾走の運動を負荷することにより赤血球膜が脆弱化して溶血し,血漿成分に影響を与え,BA+型とBA-型との間で血漿中総遊離アミノ酸濃度に約2倍の差異をもたらすことが確認された。