Grimshaw & Mester 1988(以下G&M)は,スルは空の項構造をもつ軽動詞であり,語彙部門で動作性名詞(以下VN)と複合動詞を形成すると論じた.例えばVNがAgent, Goa1, Themeの項をもっている場合,スルは項構造全てを継承することも,部分的に継承すること(AgentとGoa1のみ継承)も可能なのである.本稿ではそのような語彙部門での複合動詞の形成は,VNに対する統語的制約(かきまぜ移動不可能)を説明できないとし,LF部門においてスルとVNが(不連続)複合動詞を形成すると論じる.複合動詞の一部となるVNはいかなる連体修飾も許さず,「の」格の項による修飾も許さない.即ちG&Mが認める部分的な項構造の継承は起こらないと主張する.これにより,G&Mの提唱する階層性をもつ項構造を想定することなく,いわゆる階層性違反(ThemeがGoalを残してVN句の外に現れる)を排除することが可能である.