本論文では,等位接続詞「そして」を用いた日本語の述語等位接続構造を考察し,とりわけ当該等位接続構造の左の被接続要素に,相反する理論的結論を導く2種類の文法現象が見られることを指摘する.はじめに,述語等位接続構造の左の被接続要素には,時制要素が現れることがないにもかかわらず,主格主語は現れうることを示す.これは,左の被接続要素が最大でもvPまでの投射であり,TPは含まないことを示唆する.そうだとすると,左の被接続要素内に移動先が存在しないから,日本語では,可視統語論における動詞や主格主語のTP領域への繰り上げが起こっていないことになる.その一方で,可視統語論での主語や動詞の繰り上げの存在を示す現象も左の被接続要素に現れる.これは明らかに左の被接続要素がTPまで投射されていることを意味する.当該述語等位接続構造をvPと分析してもTPと分析しても,相反する2種類の経験的事実を同時に説明することはできない.本論文では,最後にいくつかの問題解決の可能性を示唆する.