記憶のリハビリテーションのあり方を考える際,2つの理論的枠組みが重要である。1つは目標を設定する際の枠組みであり,機能障害よりも患者の日常生活上の問題点 (能力障害) の改善に力点を置き,個々の症例の重症度や障害の特徴をふまえ,テーラーメイドに記憶の代償手段や効率的な学習技法を組み合わせていく。もう1つはリハビリテーションの目標を遂行する過程での枠組みであり,記憶障害患者と健常者との認知過程の相違点に注意することである。ことに誤りなし学習の有効性が繰り返し報告されているが,一方で,患者の能動的参加を促進することも重要である。患者の労力の喚起が新連合の学習にとって有用であることを,知覚同定型の新しい手がかり漸減法を用いた訓練課題で示した。誤りを喚起せずに患者の心的処理労力を動員することは,記憶障害患者の新しい学習にとってもっとも良好な条件となると考えられた。