仮名1文字の音読はほぼ良好だが,仮名無意味綴りの音読に著明な障害を示す phonological dyslexia1例に対し,文字表記形態を操作した仮名単語(実在語) の音読課題を実施し,その反応パターンの分析から症状の発現機序について考察した。本例は,単語親密度および表記妥当性の高い(つまり形態親近性が高い) 語の場合は,良好な音読成績を示す。しかし表記妥当性の低い語は,1文字ずつ音韻変換をはかる逐字読みのストラテジーを用いようと試みるのだが,変換した一部の音韻から目標語とはかけ離れた別の語を連想,表出するといった形態的錯読ともいえる反応が頻発した。したがって本例の仮名単語音読処理は文字列の形態親近性の識別が先行し,それが高いものは Warringtonら(1980) の語形態処理モデルに相当する形態処理ルートを,低いものは逐字読みルートを経由するが,本例ではそのうちの後者が特異的に障害されていると考えられた。