音韻性錯語の発生に対する語彙頻度および音節連鎖頻度(ある言語における前後2音の音節連鎖に関する出現頻度) の影響について検討を行った。音韻性錯語の顕著な1失語症例に,音節連鎖頻度を統制した有意味語・無意味語の復唱課題を実施したところ,無意味語で音韻性錯語が増加,また有意味語・無意味語ともに音節連鎖頻度が低い語で音韻性錯語が増加する傾向が認められたが,語彙頻度別では著明な傾向はみられなかった。 これらから,本例の音韻性錯語の発生には語彙性と音節連鎖頻度が影響することが示唆された。音節連鎖頻度の高さは構音のプランニングの慣れを引き起こすと考えられ,音節連鎖頻度の高い語での音韻性錯語の減少はその影響によるものと推定された。また有意味語における音韻性錯語の減少は構音のプランニングの慣れと意味による手がかりのためと推定されたが,本例は構音プランニングの慣れの要因がより大きいと考えられた。