ヒト記憶の神経基盤の研究に関しては,脳損傷患者を対象とした伝統的な神経心理学的研究と,最近広く用いられるようになってきた非侵襲的脳機能画像法(PETやfMRIなど)とを相補的に用いることが有効である。われわれは,実際にこれら2つのアプローチを用いて研究を行った。まず,ヘルペス脳炎後に重篤な健忘症を呈した症例への検討から,本症例で損傷されていた側頭葉内側面領域は,記憶の想起時に記憶に含まれる要素を連合するプロセスに関与するかもしれない,という仮説が導き出された。次に,この仮説を検証するために健常成人を対象としたfMRI実験を行い,記憶に含まれる要素を連合して想起する課題を行っている際に特異的に,両側の海馬傍回が賦活することが観察された。このように2つの異なったアプローチからある程度一致した結果を得た場合,結果の信頼性は高まり,結果の解釈も正しい方向へ向かうことができるようになる。