失語の回復を左右する重要な要因の1つは,病巣に言語野がどの程度含まれているかという点である。この問題を考えるうえで,皮質電気刺激を用いた術中言語マッピングを施行した脳手術例の検討は有用である。われわれは,脳腫瘍例において術中言語マッピングを行い,術前および術後慢性期の言語症状について検討した。その結果,術中の言語マッピングでは各個人において比較的限局した言語野を同定することができ,この言語野を切除しなければ,術後に重い言語障害は生じないことがわかった。しかし,切除部位によっては,完全な代償は得られにくく,部位特異的な言語症状が残存することがあった。また,広汎な白質切除の影響も考慮すべきと考えられた。失語症の回復を考えるうえで,言語の神経基盤には冗長性が高く比較的代償がききやすい部分と,完全には代償されない部分があることを考えておく必要がある。