失語症状の長期経過を明らかにする研究の一環として,2年以上経過を追跡できたアナルトリーを伴わない失語症例の回復レベルと病巣との関係について検討した。対象は,左大脳半球損傷後に上記失語を呈した25例である。全例利き手は右であり,原因疾患は脳梗塞である。 SLTA総合評価法にもとづき,各症例とも最高到達時の成績別に高得点群 (9~10点) ,中間群 (4~8点) ,低得点群 (0~3点) の3群に分け,大脳の12の関心領域における病巣の有無および,大脳皮質の萎縮,散在性のラクナ梗塞,脳室拡大の有無の,計15項目について群間で比較した。結果,(1) ブローカ領野と下側頭回を病巣に含む症例の比率,(2) ラクナ梗塞と脳室拡大を伴う症例の比率が,中・低得点群において有意に高かった。以上より,(1) 病巣の前方および後下方への伸展,(2) 皮質下病変に起因する残存脳の機能低下が,失語症状の機能回復における阻害要因になっていることが示唆された。