描画における半側空間無視は,軽度の脳損傷患者でも観察される。今回,書字において文字の成分である線分の偏倚が観察されるか否か,コンピューター解析を用いて検討した。対象は明らかな半側空間無視のない脳血管障害群44例を選び,53例の健常群と比較した。書字課題は左右対称で平易な文字である漢字の「田」「木」の自発書字を用い,文字の始点,終点と交点をコードレスタブレットから電子ペンでコンピューターに入力し,その線分比をおのおの計測した。その結果,予想に反して「田」の第3画目にあたる中央の縦線が右半球損傷群では左に,左半球損傷群では右に偏倚した。「木」でも,中央の縦線が左半球損傷群では右に偏倚した。今回の結果が得られた要因としてはさまざまな可能性が考えられるが,われわれは,視空間の刺激面積と入出力される刺激量の相対的な関係について,仮説を中心に検討した。