表情認識は社会的コミュニケーションの基礎となる能力であり, 近年, その加齢変化が関心を集めている。先行研究は, 基本情動を表す典型的な表情の顔写真を用いた検査を行い, 加齢の影響が基本情動ごとに異なることを示唆している。しかし, 典型的な表情は基本情動ごとに認識の困難度が大きく異なるため, 高齢者の表情認識の特徴を誤って捉えている可能性がある。本研究の目的は, モーフィングと項目反応理論を併用することで困難度を調整した検査法を用い, 高齢者の表情認識を正確に捉えることであった。高齢者と若年者の表情認識を比較した結果, 高齢者では喜びの表情認識の上昇が観測された一方, 喜び以外の基本情動, とくに怒りの表情認識の低下が観測された。以上の結果は, 喜びと喜び以外の基本情動との間で表情認識に対する加齢の影響が異なる可能性を示唆している。こうした加齢変化の背景機序について, 神経学的観点および社会発達的観点から考察した。