要素的症状と責任病巣の関係は以下に集約される。(1)アナルトリー:左中心前回中下部およびその皮質下,(2)(アナルトリーを伴わない)音韻性錯語:左上側頭回~縁上回~中心後回およびそれらの皮質下,(3)単語理解障害:左中前頭回,左上·中側頭回後部,およびそれらの皮質下,(4)喚語困難:左下前頭回,左角回,左側頭葉後下部およびそれらの皮質下。責任病巣が複数ある(3)や(4)は,同じ要素的症状でも,前頭葉損傷と後方領域損傷で,その障害内容が異なり,検査の工夫で相違を明らかにできた。その結果,前頭葉は理解や喚語に関して,おおまかなカテゴリーなどを指南する役割をもち,後方領域はその指南を受け,さらに厳密な情報へアクセスする役割を持つことが推測された。また,左側頭葉前方部損傷患者の特異な語想起障害のパターンから,左側頭葉前方部は意味を手がかりにした語想起に関与することが示唆された。側頭葉の損傷では,さらに,カテゴリー特異性のある障害が認められた。また,機能画像における知見は,タスク施行時のストラテジーを統制することで,臨床知見と整合することが示唆された。