小脳は,長い間,純粋に運動の調節や制御を行うための神経基盤であると考えられてきた。しかし,1980 年代の半ばごろから,小脳と高次脳機能の関連性を示唆するような解剖学的,神経心理学的な種々の報告がなされるようになってきた。特に,近年の電気生理学や神経画像の発展に伴い,注意や記憶,視空間認知,計画,言語などに関するさまざまな課題の遂行に,小脳が関与していることが明らかになってきた。臨床的にも,脳卒中や自閉症,注意欠陥・多動性障害例などで小脳病変と認知機能障害に関する報告がみられる。 小脳と高次脳機能の関連についての仮説としては,小脳が内部モデルによる行為のモニターとフィードバックを行うとする説,情報処理の円滑な協調化を行うとする説,タイミングの制御を行うとする説などがある。しかし,これまでの研究には,運動出力との分離が困難である,前頭葉の賦活を伴うなどの種々の問題点もあり,小脳がどのように認知機能に関連しているのか,という問いに答えるためのエビデンスの構築が望まれる。