限局性右前頭葉脳出血後,場所に関する重複記憶錯誤が出現した1 例を報告した。本例の特徴は,地理的定位錯誤(自分が現在いる場所の同定の錯誤),二重見当識を経て,「同一の病院が複数存在する」という場所の重複記憶錯誤に至った経過を詳細に追えた点である。本症例の経過を通じて,重複記憶錯誤の成立過程を考えると,その症候は,視空間障害による客体の定位障害に因るものではなく,自己の空間ないしは場所への定位障害から発展する可能性が考えられた。また,重複記憶錯誤を引き起こす責任病巣としては,右前頭葉背外側の機能低下が最も重要と考えられた。