発話開始困難と中断が目立つ非流暢性失語症を呈したが,その他の言語症状は軽微であった症例について,その非流暢性の原因を検討した。症例は83 歳,右利きの女性。左中前頭回後部から中心前回前部にかけての脳梗塞を発症,第1病日はごく軽度の失構音があり,非流暢性が著明であった。語列挙や文の構成障害がなく,発話衝動は保たれ,失構音は速やかに改善したにも関わらず,自由発話における発話開始困難と中断が遷延した。非流暢性発話の二大要因である失構音と言語発動性の低下を欠き,本症例における非流暢性の原因として,前頭葉由来の思考障害,思考の言語化の障害,選択肢が多い場合の語句の選択の困難さが考えられた。本症例の病巣は,多くの典型的 Broca 失語の病巣に含まれることから,本症例の非流暢性発話の原因が,典型的 Broca 失語の非流暢性発話の一因となっていることが予想される。