左被殻,放線冠に病変を有する皮質下の小病巣にて発語失行近縁の症状が軽微ながらも持続した一症例を経験した。一般に発語失行や純粋語唖などは予後が良く,発話面の障害のみがみられ,責任病巣は左半球中心前回付近と論じられることが多いが,基底核の損傷で発語失行に近縁の症状がみられた報告も散見される。そこで本例と先行報告から,中心前回付近で生じた発語失行や純粋語唖と,被殻病変で発語失行様症状がみられたものとで症状の比較を行った。相違点として,(1) 中心前回に病変をもつ皮質性障害ではプロソディーの障害が,被殻や深部白質に病変をもつ皮質下性障害では構音の障害が前景となり,(2) 自発話―課題発話の障害は,皮質性障害では乖離がなく,皮質下性障害では,乖離がない場合と,乖離する場合は発話見本が音韻または文字によって提示されるような課題発話に比べ,相対的に自発話の障害が重度になるという傾向がみられた。このような相違が生じる機序について神経生理学的な立場から考察を加え,被殻,深部白質病変でみられる皮質下性の構音の障害は,発語失行などでみられる構音の障害と同一機序で生じることが示唆された。