脳梁梗塞により左右手に異なる失書を呈した両手利きの一例を報告した。これまで脳梁病変によって,右利き患者では左一側性に失書が出現することが指摘されてきた。本例では左右手に異なる特徴を示す失書が観察された点が特異的であった。左手の失書は鏡像的錯書を含む錯書が主体であった。一方,右手では文字形態の乱れやスクロール症状を著明に認め,書字運動のコントロールの困難さや構成障害の影響が疑われた。本例は脳梁膨大部を除く脳梁全離断例でありながら,左手に鏡像的錯書を含む錯書が観察されており,右半球にも不完全ながら書字に関する文字情報や運動情報が存在していることが示唆された。左手一側に触覚呼称障害を認めたことや,本例の書字特徴から,言語機能は左半球に,文字形態の構成能力は右半球に優位に側性化しており,さらに書字に関する運動情報は通常よりも強く右半球に形成されていることを推察した。こうした左右大脳半球の情報が,脳梁離断により十分に伝達・統合されず,左右手に失書が出現したと考えられた。