ヒマワリのような花の左側の花びらがなければそれに気づき,左半分が塀か何かに遮られていれば隠れて見えないと感じる。右半球の脳卒中後に左半側空間無視が生じた患者は,花の絵を右半分しか模写しなくても,手本と同じように描けたと言い,左側の描き落としに気づかない。もちろん,手本の花の絵について右半分の絵であるとか,右半分しか見えないとか言うことはない。半側空間無視患者の注意は右方へ向きやすく,左方へ向きにくい。少なくとも花の絵くらいの大きさの対象において,健常人では左右への注意のバランスに極端な差が生じることはない。ところが,半側空間無視患者では,花の絵に注目した時,左右に急峻な注意の勾配が生じている。注意が向かない空間は意識に上らず,喪失感も生じない。一方で,注意の向いた右側部分の情報によって,対象が何であるかの認知は成立する。このような,空間の認知と対象の認知のギャップを考えながら,半側空間無視の視覚世界を理解する試みを展開したい。