どのタイプの失語であれその言語治療では,「適切な刺激を与えることによって,何らかの反応を得る」という作業が大部分であり,言語刺激を与えることはもっとも強調されるべき失語症言語治療の原則である。しかし一方,失語症には,刺激するだけではなく,保続や再帰性発話などのようにその出現を抑制しなければならない症状もある。言語治療の目的は様々な側面の言語能力の向上をはかることではあるが,最終的には運用面としてのコミュニケーション能力を高めることである。すなわち,失語症言語治療で重要なポイントは,それぞれの失語症状に合わせて適切に「刺激 (あるいは抑制)-反応」の作業を繰り返し,双方向性のコミュニケーション場面を形成することである。失語症者の脳機能の再編をはかりコミュニケーション能力を向上させるためには,言語治療者側にも柔軟かつ機敏なコミュニケーション能力が求められる。