脳梗塞後,物体失認および画像失認を伴わない相貌失認を呈した症例を報告した。症例は 69 歳右利き女性。頭部 MRI 画像において両側の外側後頭葉皮質と右側の紡錘状回外側部の損傷を認めた。標準高次視知覚検査 (VPTA) の結果,本例は熟知相貌認知が重度に障害された相貌失認のみを呈した症例と考えられた。そこで,本例の物体認知と相貌認知について精査した。本例では物品線画と有名固有建築物の呼称,有名人の言語的説明からの呼称が良好であり,物体・画像認知や呼称能力,人物の意味記憶は保たれていた。人名呼称課題では言語性課題に比較して,視覚性課題が著しく困難であった。以上より,本例は物体失認および画像失認を伴わない相貌失認のみを呈した症例であると考えられた。また,本例では未知相貌の弁別と再認が可能であり,相貌の形態知覚が成立していた。したがって,本例は相貌の視知覚機能が良好に保たれた連合型相貌失認 (De Renzi ら1991) であると考えられた。また,本例の相貌認知障害の責任病巣は,両側後頭葉外側皮質と右紡錘状回外側部であり,相貌失認の出現には,これらの部位,とくに右側後頭葉外側皮質がきわめて重要と考えられた。