純粋失書は失語症などの障害がないにも関わらず,後天的な脳損傷によって書字のみが選択的に障害されるため,その病巣から書字中枢の存在を探索する試みがなされてきた。これまでの検討では,左中前頭回,上頭頂小葉,側頭葉後下部,左角回から側頭葉におよぶ領域が責任病巣として有力視されている。しかしながら,右半球損傷での純粋失書の報告は少なく,その病態はいまだ不明な点が多い。我々は,右半球を中心とした病巣で失書を呈した一症例を経験した。本症例は明らかな失語症状や,書字に影響を及ぼすような意識障害,知的低下,失認,失行,構成障害などを認めないにも関わらず,漢字に比して仮名に顕著な失書を認めた。上記の所見から,本症例において仮名の書字機能は,側性化の異常により左半球損傷例に対し鏡像的に,右側の中心前回領域を中心とした前頭葉から頭頂葉におよぶ領域にかけて存在していた可能性が示唆された。