典型的なアルツハイマー病 (AD) は記憶障害で発症し, その後言語障害, 失行, 構成障害などが加わる経過をたどる。しかし実際は AD の臨床像は一様ではない。病理学的に AD であっても, 記憶以外の認知機能障害 (視空間機能, 言語, 遂行機能) が前景に立つ症候群が存在する。軽度認知障害 (MCI) においても同様で, 記憶障害を主体とする amnestic MCI の他に, 視空間障害や遂行機能障害を主体とする non-amnestic MCI が存在する。ゆえに AD, MCI を診療する時は幅広い認知機能を過不足なく評価する必要がある。 レビー小体型認知症 (DLB) では AD に比べて記憶障害が軽く, 注意・遂行機能障害と視空間障害が目立つ。AD が皮質型認知症であるのに対して, DLB は皮質下型と皮質型の特徴を併せ持つ皮質-皮質下型認知症である。たとえば時計描画のように簡易な検査でも AD と DLB の病態生理学的違いは反映される。AD では時計描画障害は側頭葉皮質機能不全による意味記憶障害に由来するのに対して, DLB では前頭葉-皮質下核回路機能不全による注意・覚醒調節障害や視空間注意障害に由来すると考えられる。このように, 認知症臨床では検査点数だけでなくその質的違いまで意識して患者と接することが重要である。